塩水選と温湯処理で種子感染の細菌病などはほぼ防止することが出来る。バカ苗病などはほとんど発生せず、薬剤を使うより効果が高い。それよりも難しいのはカビ類による土壌病害だ。
深さ3pにも満たない苗箱の中で温暖多湿、しかも菌類の餌になる有機肥料が入った床土は有効菌とともに病原菌の繁殖にも適した環境のはずだ。
数年にわたる失敗の中から、見えてきたことをご報告する。
山形県最上地方は豪雪地帯で、特に家の育苗ハウスの場所は吹き溜まりになり、完全に雪が消えるのは四月の初め。まことにあわただしい春作業となる。
育苗方法としては、播種後、無加温でビニールハウス内に並べ、保温のためミラシートをかぶせ、芽が揃ったら剥がす。あとは通常のハウス育苗である。これは有機苗も変わらない。
平成十二年 ボカシ失敗300枚
有機稲作を始めた頃は、育苗床土に米糠をぼかしたものを入れていた。この頃はまったく病気が出なかったのだが窒素成分がほとんど飛んでいるようで、二葉が展開した頃に生育が停滞してしまい、硫安を追肥するといった状況だった。そこでこの年は大豆カスを中心にして窒素分の多いボカシを作ってみたのだが、これが大失敗だった。ハウスの中で再発酵し、苗が根腐れを起こしてしまい、有機用に準備していた苗300枚が全滅してしまった。
ボカシと平行して慣行米用の苗の区画を分け、数種類の市販有機肥料を試してみた。根腐れこそ起こさなかったが、播種時、苗箱に詰めた床土がまったく水を吸わなくなり、肥料成分がなかなか効いてこないものもあった。その中で川井肥料のブラドミンがわりといい結果を出したので、これを有機栽培用に当て、不足分をご近所から余った苗を分けてもらい何とか田植えをした。次の年はこの方法でいくことしにた。
平成十三年 ムレ苗大発生800枚!
この年、地元の有機農家グループで炭を作った。籾殻に粘土を加え、高温で焼いたモミガラ炭で、機能性、持続性とも木炭や普通のくん炭を上回る高い性能を持っている。それぞれが試験的に苗床に使ってみることにした。
400枚ほどは今まで通り山土とピートモスを5:1.5で混ぜたもので、残り1200枚は同割でモミガラ炭を入れた床土、肥料はブラドミン(N2g/一箱)にリン酸分を補う意味でグアノを加えた。また、播種時の水はじきを防ぐため床土混合と箱詰めを一貫作業とし、播種前日に作業した。結果、炭入りの方は良く水を吸う土と、吸水の悪い土がある。ピートモス入りの方は水をはじいた。
この頃、有機稲作の講習会などに参加し、プール育苗の勉強をした。また、地元の有機農業の仲間たちもプール育苗をしていたこともあり、有機米の分だけをプール育苗としてみた。
なかなか肥料の効きも良く、順調に生育しているように見えたのだが、葉令2.0葉を過ぎた頃、一斉にムレ苗が発生した。しかも全体にまんべんなく。
追肥をしたり、活性剤を使ったり、いろいろ手を尽くしたのだが、最終的には800枚近くダメになり、近所では苗を集めきれず、忙しい時期、遠く庄内まで行って苗を調達するハメになってしまった。
そんな中、プール育苗の苗はまったくムレ苗も立枯病も発生しなかった。来年はこれで何とか乗り切れると希望を見いだしたのだが…。
![]() プール育苗 |
![]() ムレ苗 |
平成十四年 プール苗で万全のはずが…。
この年は炭作りが農業法人として本格的に稼働し始めた。そのため、床土はピートモスをやめ、全部モミガラ炭入りの床土とした。有機栽培面積も1.5haまで増やした。
山土とモミガラ炭3:1の割合で混合したが、モミガラ炭は混ぜると約半分に目減りするので、実際は6:1ぐらいだろうか。モミガラ炭をこのくらい混ぜると、播種時の床土の吸水はまったく問題がなかった。肥料はブラドミンのみ。窒素成分で一箱3gほど。pHが高くなるのでグアノはやめた。試験的に窒素6gほど入れた苗も作ってみたが、とくに障害は出なかった。ただ、肥料の効きが良いせいか、苗が軟弱になるような気がする。ハウスも二棟ある内一棟をすべてプール育苗とした。
生育中盤までは順調だったのだが、後半になってプール育苗にいくらかムレ苗の発生が見られた。ムレ苗は一度発生してしまうと回復することはなく、それ以上広がらないようにするしか手がない。無農薬苗の他からの調達が不可能ということで、不本意ながら、タチガレエース液剤で消毒。早めに田植えをすることで、何とか切り抜けた。
![]() モミガラ炭 |
![]() ピートモス |
昭和六二年刊行の『やまがた 米づくりのすべて』によると「ムレ苗は気象変動が大きいとき、地上部と地下部がアンバランスな苗にピシゥーム菌が介在し地下部の生育を阻害するために起こる」とある。ムレ苗の原因については、資料によって「過湿や急激な気象変動による生理障害」「ピシウム菌が介在した生理障害」又は「ピシウム菌によるムレ苗と類似した立枯病」とまちまちだ。菌が介在するにせよ、しないにせよ他の立枯病のように菌に直接苗が犯される病気ではなく、生育環境が大きく影響しているようだ。
最上地方の五月は気象変動が激しく、凍えるような日和でも、ひとたび雲が切れ日が差せばハウス内はあっという間に40℃を超えてしまう。しかし、ムレ苗は化学肥料を使用し、農薬で土壌消毒をしていた頃にはまったく発生しなかったので、気候が主な原因とは思えない。やはり菌の影響が大きいのではないだろうか。菌の餌になる有機肥料と、pHの高い炭がムレ苗発生の原因ではないか。そういえば、平成十三年はピートモスを混ぜた床土にはムレ苗があまり見られなかった。
プール育苗では病原菌が活動できず、立枯病にならないといわれるが、ムレ苗の発生のメカニズムを見ると、生育初期、プールに水を入れる前に生理障害を起こし、その後2.0葉を過ぎた頃に突然症状が出るので、プール育苗では防ぐことが出来ない。
平成十五年 できた無農薬・無化肥育苗
平成十五年はpH調整のため、山土、モミガラ炭、ピートモスを5:2:1の割合で混合。肥料は前年と同じ。さらにモミガラ炭には水をたっぷり含ませて混合した。混合して一週間ほど寝かせて播種したが、吸水性に問題はなかった。ただ、ハウスに並べてから雨による低温続きで、なかなか芽が出ず、保温シートをかけっぱなしだったので、表面にカビが生えてきてしまった。これにはヒノキチオールを散布して対応した。
その後は問題なく生育し、やっとまともな苗を作ることが出来、何年ぶりかで落ち着いて田植えをすることが出来た。ふ〜。
今後の課題
| ○ | 近所に無加温で被覆資材も使わずに問題なく育苗している家が何軒かある。その方が初期のカビ対策には良いかもしれない。 |
| ○ | 床土の適正pHは4.5〜5.5とされているが、『水稲ムレ苗に関する研究(第2報)/川村戈十二・吉沢清』によると、有機苗の場合pHは4.5〜5.0の範囲に調節した方がいいかもしれない。今年はピートモスの割合を増やしてpHを調整しようと思う。 |
| ○ | 有機肥料の使用方法。窒素成分は何%ぐらいが適当か。化学肥料と同じ考え方で施してよいのか。播種の何日くらい前に床土と混合したらよいか。いろいろ試し、数年かけて結果を見たい。 |
参考文献
『やまがた 米づくりのすべて』
発行 山形県農業技術普及会
農林水産研究成果ライブラリー
滋賀県農業総合センター農業試験場
水稲ムレ苗に関する研究 第1報・第2報 川村戈十二・吉沢清
http://rms1.agsearch.agropedia.affrc.go.jp/contents/JASI/public/public-shiga/shiga_nougyou.htm
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